高瀬孝信(2001年没)。京都西本願寺派 截金絵仏師。

日本工芸会正会員存命中は私から見れば、一生懸命、朝から晩まで働く男性だぐらいに思ってましたが、偉い人だったと現在は感じてます。

「僕は師匠だ。お前は弟子だ。」この言葉を結婚三十年余の中で、何度耳にしたことでしょう。

家庭生活の中で、夫婦の会話の時。「お前は弟子だ。」この言葉の前に私は何一つ反論出来ず、意見も言えず、「はい、はい」としか云えず

三十年余を夫と過ごしました。

私は貴方に弟子にして下さい。とお願いした事はありません。云った記憶もありませんよ。結婚前は、美容師として十年働いていたしたよ。

結婚一年過ぎた頃出産した私は赤子をつれて外に働きに出られず収入の少ない家計を助ける気持ちで夫の仕事を手伝う事にしました。

西本願寺截金絵仏師の技術を見て無理だと感じました。然し私は、金箔の代替として、紙を細く切り始めました。細く切った紙を筆二本を手に、

貼る練習を続け、夫の就寝中にこっそりと夜中に起き出して、本番に少しずつ手を出しました。夫は、一ヶ月程は気がつきませんでしたが、

発覚した時は、何も云いませんでした。堂々と昼間仕事に時間を使いました。夫は始はフンと鼻先で笑ってました。

私から紙や鋏を取り上げなくなりましたネ。

見限りもなく仕事をさせて下さった貴方の心優しいお心に他ありません。本当に有難うございました。

存命中は、一言もお礼を云う事もなく、現在になってアー一言でも良い。夫の前で「有難うございました。」と云えば良かった。

今頃になって感謝しております。

夫が生前中は、叱られるばかりで、難しい仕事だなァ。と感じ、自分の力がない能力がない自分を棚に上げ、

「弟子にして下さいなど、私が云った記憶なんてないわ」と思っていった私、恥入るばかりです。弟子にして頂いて有難うございました。

今になって大きな声で、有難うございます。と弟子にして頂いて有難うございます。

夫が天に召されて二十年近くになりますが、現在私は仕事はしておりません。然し截金の技術からは離れてはおりません。

夫の死後、拙い絵を描き、截金の技法を使って表現しております。御所市は美術展。奈良県美術展。奈良県高齢者美術展等。

作品を出品をさせて頂き、入選やいろいろな賞を頂きました。

截金作品は奈良県で出品者は私一人です。珍しいので入選や賞を頂けるのではと、申し訳なく想っております。

現在八十七歳の私が截金作品で美術展に出品出来るのも、貴方のお陰ですもの。

貴方は日本工芸会に出品した作品は、大きな賞を頂き、平成九年度には紫綬褒章を国から頂きましたネ。大変な事ですヨネ。

貴方は偉い人だったと今更乍ら誇らしく思ってます。

あの世に参りまして、貴方にお逢いした時開口一番、お礼を申しますわ。本間よ。もうすぐ貴方様のお側に行きます。

お待ち下さいネ。

すぐ参ります程に

洋子より

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